北隆館

SCIENCE WATCH 蚊の観察と生態調査(重版出来:2021年6月)

身近な蚊を世界の最新研究の中に位置づける!
製品情報
ジャンル・特集 SCIENCE WATCH
著者/編集 津田良夫(国立感染症研究所昆虫医科学部)
定価 4,180円(本体3,800円+税)
発売日 2021.06.20
判 頁 A5判・並製・360頁
ISBN 978-4-8326-0781-1
概要

人から吸血し、病気を媒介する蚊。蚊は本当のところどんな生物なのでしょうか?

もっとも普通に見られる「アカイエカ」、最近、流行が心配されるデング熱の媒介蚊である「ヒトスジシマカ」、津波被災地で大発生が観察された「イナトミシオカ」など、比較的身近な蚊を中心に、

日々、公園で自ら蚊に刺されながら調査研究を進める著者が、初心者にもわかりやすい達意の文章で、蚊の驚くべき世界に読者を招待します。

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一口に「蚊」といっても、世界には「3,520種」以上、日本だけでも「100種」以上の蚊が生息しています。

本書は、身近な場所に生活する蚊に焦点を当て、その生態、習性を紹介しながら、世界の最新の研究成果の中に位置づけ、初心者にも簡明に解説しています。

本書を読むと身近な自然の中には、驚嘆すべき事象が多々あることに気づかされます。

「マラリア」や「デング熱」をヒトに媒介し、私たちの生命にも重大な影響を与える「蚊」の一流の解説書であると同時に、著者の自然を探求する姿に惹き込まれながら「自然科学とは何なのか?」という疑問に具体的に答える、一流の科学入門書になっています。

著者が好む米国の生態学者の言葉「自然界の中で繰り返し観察されるパターンを見つけることが科学することだ」を、そのまま体現した「科学ノンフィクション」の傑作です。

「2007年106回、2008年126回、2009年157回、 2010年95回、2011年72回、2012年97回、 これはここ数年、私が近所の公園で行ったフィールドワークの回数である」(「はじめに」より)。

目次

口 絵
ふつうに採集される17 種類
庭先でよく見かけるボウフラ
蚊の各部の名称
17 種の蚊の検索表

目 次

Ⅰ.蚊をよく知るための基礎知識

1.蚊の形態と分類のはなし

蚊の種類と多様性
蚊の分類体系
体の構造(成虫)と種同定で着目する形態的特徴
種を同定するときに,蚊に特殊な事情
形態観察では種類が区別できない:同胞種のはなし
八重山諸島のコガタハマダラカ(ヤエヤマコガタハマダラカ)
日本の蚊,北と南の蚊相はだいぶ違う
最近の調査でふつうに採集される蚊の見分け方と生態
“ふつうに”採集される種類を選び出す
種類の見分け方

2.蚊がうつす病気のはなし

蚊が病気をうつすしくみの“いろは”
病気をうつすことができる蚊は刺しに来る蚊の数%だけ

3.蚊の生活と一生

産卵
産卵場所
蚊の幼虫の発生場所
川に発生する蚊がいる
水域に発生する幼虫の種類は季節的に移り変わる
幼虫の餌
ボウフラの発育は早い
蚊の幼虫は4 回脱皮して蛹になる
ダイヤーの法則
蚊の蛹は活発に泳ぎ回る
蚊の交尾
蚊の吸血行動を理解する
二酸化炭素ガスは重要なサイン
待ち伏せ型と探索型の吸血行動
夜行性と昼行性の蚊がいる
蚊はいろいろな動物から血を吸っている
蚊の越冬生態

4.野外で蚊を採るためには

吸血のために飛来する蚊の採集
夜間吸血性蚊の人囮採集
昼間吸血性蚊の人囮採集
動物を囮にした蚊の採集
トラップ(罠)による蚊の採集
トラップ採集の利点
トラップの設置場所をどのように決めるか
調査で使用するトラップの台数は何台が適切か
実際にトラップを設置する場所はどんな場所が適当か
簡便な二酸化炭素ガスの発生方法
産卵雌用トラップ
休息雌用トラップ
捕虫網による採集
吸血蚊の採集
幼虫の採集
産卵トラップを用いた幼虫の調べ方
蚊の飼育のしかた
持ち帰る時の注意点
便利な成虫用の手作り容器
殺虫剤に注意
蚊の標本の作り方
分子分類のための配慮
蚊の解剖―卵巣と唾液腺の取り出し
蚊の内部構造
蚊の卵巣と卵形成
中腸
解剖に必要な道具類
卵巣の取り出し
〔経産雌・未経産雌の判定;休眠/非休眠個体の判定〕
中腸の取り出しとマラリア原虫(オオシスト)の観察
唾液腺の取り出し

Ⅱ.公園で生活する蚊を調べる

広域の公園調査
公園の雨水マスに発生するボウフラを調べる
ボウフラが多い公園と少ない公園
広域公園調査の副産物
公園の雨水マスに発生する蚊の生態調査
雨水マスにおけるボウフラの発生
ボウフラの発生数にみられた季節消長
ボウフラがたくさん発生する雨水マス
昼に刺しに来る蚊の密度と季節消長
ヒトスジシマカは何日生きる?
ヒトスジシマカの越冬
発育零点を調べる
暖かい地方のヒトスジシマカの発生消長
ヒトスジシマカは寒い地方のどこまで生息している

Ⅲ.コガタアカイエカの冬越し

調査のきっかけ
コガタアカイエカの季節消長に関するこれまでの見解
林試の森公園へのコガタアカイエカの飛来
他地域における越冬地の探索
林試の森公園内のコガタアカイエカの密度の違いと他の公園の飛来
密度との比較
関東地方以外でも同じことが起きているのだろうか?
越冬期のコガタアカイエカの生存率
越冬した成虫が出現した時期
春に採集される越冬成虫の数を決めている要因は?

Ⅳ.ヨシ原に棲む不思議な蚊 ―イナトミシオカ―

イナトミシオカとの出会い:東京港野鳥公園
佐潟湿地のイナトミシオカ
イナトミシオカの生態
〔イナトミシオカの幼虫発生場所;イナトミシオカの吸血行動
イナトミシオカの飛翔範囲;イナトミシオカの吸血源動物〕
イナトミシオカと鳥マラリア原虫
鳥マラリア原虫の種類とその同定
佐潟湿地で見つかった鳥マラリア原虫の系統
蚊が媒介する病気の侵入・定着・流行そして消失
佐潟湿地の蚊と蚊が媒介する鳥マラリアの年変動
イナトミシオカの冬越し
イナトミシオカの生息地の不思議
津波被災地におけるイナトミシオカの大発生

Ⅴ.蚊がうつす病気の流行 ―人の病気の流行と野鳥のマラリアの流行―

蚊が媒介する病原体の感染環
病気が流行する条件:基本再生産率
朝鮮半島で三日熱マラリアが流行している
北部イタリアでヒトスジシマカによるチクングニヤウイルスの流行が起こった
日本脳炎ウイルスの流行は毎年繰り返されている
米国でウエストナイルウイルスが大流行している
東京で野鳥のマラリアが流行している
日本における鳥マラリア原虫の感染環と流行
鳥マラリアが野鳥に与える影響
ペンギンマラリア
鳥マラリア原虫の媒介蚊研究の対象はアカイエカ
アカイエカが媒介している鳥マラリア原虫を知るための方法
分析手法の検討:ニワトリマラリアと媒介蚊の実験系による試み
媒介蚊は分子生物学的手法だけでは特定できない
林試の森公園のアカイエカからの鳥マラリア原虫の検出
吸血したアカイエカからの鳥マラリア原虫の検出と吸血源の動物の同定
アカイエカの鳥マラリア原虫感染率の季節変化
アカイエカの吸血パターンの季節変化
鳥マラリア原虫の遺伝的系統には流行しているものとそうでないものがあるようだ
地域や場所によって異なる鳥マラリア原虫の感染環が存在する
蚊が媒介する病気の地域性

Ⅵ.日本で一番よく出会う蚊 ―アカイエカとチカイエカ―

欧米におけるアカイエカ群の研究
日本のチカイエカは第2次世界大戦前後にみつかった
アカイエカとチカイエカでは個眼の数が違う
個眼数の季節変化を調べる
個眼数の調べ方
個眼の数に見られた季節変化
遺伝的な違いに基づく分子分類法
欧米でトビイロイエカとチカイエカが再び注目されている
わが国にWNV が侵入した場合のアカイエカの役割を予想する
アカイエカは昆虫ウイルスに感染している:Culex Flavi ウイルス

Ⅶ.マークした蚊を放して動きを調べる ―マーキング法―

ヒトスジシマカの吸血飛来行動と移動分散
未吸血蚊のマーキング実験
産卵雌のマーキング実験
個体を区別するマーキング
2種のシマカの分散行動を比較する:石垣島のヒトスジシマカとリバースシマカ
調査地は石垣島
グループマーキングで生息場所の選択性を調べる
採集場所周辺の環境評価(植生の立体構造)
こんもり度の登場
こんもり度とシマカの生息密度はうまく対応している
マーク虫の動きをうまく説明できるか?
ヒトスジシマカの動きをうまく説明できないのはなぜ?
石垣島におけるコガタハマダラカの移動と分散
北部タイでのコガタハマダラカのマーキング実験
アカイエカの飛翔範囲
動物園での吸血源動物調査から推定された吸血後のアカイエカの移動距離

Ⅷ.蚊が好んで血を吸う動物 ―吸血の嗜好性の話―

動物の囮を使って吸血源の動物を調べる
DNA を使って吸血源になった動物を調べる
分子生物学的な方法には別の利点もある
DNA 分析によって日本産の蚊の吸血嗜好性がわかってきた…
北海道の蚊はどんな動物を吸血しているのだろう?
蚊が吸血する動物の種類構成は状況に応じて変わる
蚊の吸血習性を通じて動物は間接的に関係し合っている
蚊の吸血によって作られる“動物のつながり”と“蚊がうつす病原体の通り道”
“20-80 の法則”:蚊が吸血する動物にみられる偏りと病気の流行

“希釈効果”:宿主でない動物を吸血することが病原体の伝播効率を低くする
“希釈接触”の例:マレー半島で行われたサルマラリアの媒介蚊研究

あとがき
資料
本書に登場した蚊の和名・学名リスト
用語索引

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