北隆館

感染症媒介蚊と闘う

ハードコアな蚊と研究者との壮絶な闘い!
製品情報
ジャンル・特集 専門書(北隆館)
著者/編集 川田 均(長崎大学熱帯医学研究所)
定価 定価:3,410円(本体3,100円+税)
発売日 2022.12.25
判 頁 A5判・並製・305頁
ISBN 9784832610156
概要

もっとも人を死に追いやる危険生物が「蚊」だ。蚊が媒介する感染症には、マラリア等の原虫疾患、デング熱・黄熱・チクングニア熱。ジカ熱等のウィルス性疾患がある。その原因は、雌蚊の吸血活動にあり、雌蚊の吸血行動の最大かつ最終的な目的は「産卵」だ。産卵を実現するための飛翔行動に雌蚊は多大のエネルギーを必要とし、そのエネルギーを得るために寄主(ホスト)となる動物を探索し、吸血する。本書は、民間企業で殺虫剤に従事した後、研究生活に入った著者が、世界を舞台にした感染症媒介蚊との「闘い」を縦横に語るハードコアな科学読み物です!

「私は,世界に何万人もいる蚊の研究者の端くれとして,感染症媒介蚊と闘う道を選んだ。そして,蚊の生き残り戦略としての殺虫剤抵抗性の進化に素直に驚き,為す術を持たない自分の限界を知るに至った。本書に書かれた内容は,そんな私の敗北の記録であるが,一方で随所に一縷の希望を託すものである。若い研究者達の教科書になるような代物ではないが,本書から何か一つでも将来の研究のためのヒントを拾い上げていただければ幸甚である。一般の読者にとっては,些か専門的すぎて難解かも知れないが,広い世の中にはこんな研究や研究者達がいて,世界平和は大袈裟ながら,それにほんの少しでも寄与すべく日夜努力していることを感じ取っていただければこの上ない喜びである」(「はじめに」より)

目次

はじめに

第1章 敵を知り,己を知れば百戦危うからず(感染症媒介蚊を知る)

1.感染症媒介者としての「蚊」
2.日本におけるマラリアとの闘いの歴史
コラム1 死について想うこと

第2章 声無きに聴き形無きに視る(蚊の行動を探る)

1.蚊の寄主探索行動を探る
1-1 蚊の宿主探索行動の自動記録装置を作る
1-2 ネッタイシマカとヒトスジシマカの寄主探索行動パターンの比較
1-3 ネッタイシマカとヒトスジシマカの夜間の宿主探索行動
1-4 寄主探索行動パターンと視覚の関係
1-5 まとめ
2.蚊の忌避行動を探る
2-1 忌避とは何か?
2-2 蚊の忌避剤として使用される物質
2-3 ピレスロイドは忌避剤なのか?
2-4 ピレスロイドはどんな忌避効果を持つのか?
2-5 蚊はピレスロイドをどこで感じているのか?
2-6 ピレスロイド抵抗性と忌避の関係
2-7 蚊の忌避行動を定量化する
3.蚊の飛翔力を探る
3-1 蚊の飛翔と移動
3-2 蚊の飛翔力を測定する
4.蚊を飼い慣らす

第3章 小の虫を殺して大の虫を助ける(蚊と闘うための化学兵器-殺虫剤)

1.ピレスロイドは世界を救う
1-1 殺虫剤の開発とは
1-2 ピレスロイドの発見
1-3 ピレスロイドの特性
1-4 ピレスロイドを継ぐもの
2.昆虫幼若ホルモン様物質ピリプロキシフェンの誕生
2-1 ピリプロキシフェンの作用特性
2-2 ピリプロキシフェンの蚊幼虫駆除剤としての実用効果
2-3 ピリプロキシフェンの新たな可能性
(1)Autodissemination(自己伝播)によるネッタイシマカ防除
(2)ピリプロキシフェン含浸蚊帳によるハマダラカの不妊化の試み
2-4 まとめ
3.殺虫剤をマイクロカプセル化する
3-1 ゴキブリ防除用MC 剤の開発
3-2 マラリア媒介蚊防除用残留噴霧剤の開発

第4章 虎穴に入らずんば虎子を得ず(書を持ってフィールドに出よう)

1.世界のネッタイシマカとヒトスジシマカの殺虫剤抵抗性を知る
1-1 ピレスロイド抵抗性とは
1-2 幼虫を用いた簡易ノックダウン試験の考案
1-3 ベトナムにおけるシマカ類のピレスロイド抵抗性の全国調査
(1)ベトナムにおけるネッタイシマカおよびヒトスジシマカの地理的分布
(2)ベトナムにおけるネッタイシマカ,ヒトスジシマカ,ネッタイイエカの殺虫剤感受性の地理的分布
(3)ネッタイシマカの電位感受性ナトリウムチャネル(Voltage Sensitive Sodium Channel, VSSC)におけるポイントミューテーションの地理的分布
1-4 ミャンマー,Yangon 市のネッタイシマカのDDT およびピレスロイド抵抗性
(1)Yangon 市におけるネッタイシマカの殺虫剤感受性
(2)Yangon 市のネッタイシマカのVSSC におけるトリプルミューテーションの発見
1-5 ネパールにおけるネッタイシマカとヒトスジシマカのピレスロイド
抵抗性,およびネパールへのネッタイシマカの侵入に関する遺伝学的推論
(1)ネパールにおけるネッタイシマカとヒトスジシマカの殺虫剤感受性とVSSCのポイントミューテーション
(2)ネッタイシマカにおけるVSSC ミューテーションとドメインII のイントロンとの連鎖
(3)地球温暖化とネッタイシマカのネパールへの侵入
1-6 アフリカのネッタイシマカ個体群からのVSSC ミューテーションの
発見,およびその侵入経路に関する遺伝学的考察
(1)ガーナのネッタイシマカ個体群の殺虫剤感受性
(2)ガーナのネッタイシマカ個体群におけるVSSC ミューテーションの発見
(3)VSSC エクソンに隣接するイントロンに基づいたガーナのネッタイシマカの系統解析
1-7 日本におけるヒトスジシマカのピレスロイドおよびDDT 抵抗性
(1)長崎市で採取されたヒトスジシマカの殺虫剤感受性
(2)ヒトスジシマカのピレスロイドおよびDDT 抵抗性メカニズム
(3)海外のデング熱媒介蚊が日本国内に侵入する可能性
1-8 まとめ
2.アフリカのマラリア媒介蚊の行動と生態,そして殺虫剤抵抗性の実態を知る
2-1 ケニアのハマダラカの家屋への侵入と吸血行動
2-2 ケニアのハマダラカの屋内休息の実態を知る
2-3 ケニアのハマダラカの殺虫剤抵抗性を調査する
2-4 マラウイのハマダラカの殺虫剤抵抗性を調査する
コラム2 マラリア媒介蚊の抵抗性に関する寓話「ドクターMの悲劇」

第5章 先んずれば人を制す(闘いのための武器を揃えよう)

1.LLIN はまだ武器となるのか?
2.ペルメトリン徐放化ネット(オリセットネット)による新しい媒介蚊防除の試み
2-1 オリセットネット素材を用いたベトナム南部におけるデング熱コントロールの試み
2-2 オリセットネット素材を用いたケニア西部におけるマラリアコントロールの試み
3.常温揮散ピレスロイド(メトフルトリン)を徐放化した空間忌避デバ
イスによる媒介蚊コントロールの試み
3-1 メトフルトリン含有空間忌避デバイス(Metofluthrin-impregnated
Spatial Repellent Device, MSRD)の開発
3-2 MSRD からの有効成分の揮散と環境要因の関係
3-3 マラウイのマラリア流行地域におけるMSRD とLLIN の併用による介入試験
3-4 空間忌避デバイスの国内事情

第6章 敗軍の将,兵を語らず(ダメ研究者がこの本を書くに至るまでのダメ研究人生に関する長い後書き)

1.ダメ研究人生の始まりと顛末
1-1 少年時代から学生時代
1-2 会社の研究員時代,ベクターコントロールの道に
1-3 長崎大学での第二の人生
2.それでもダメ研究人生は続く
2-1 海外での困難な経験
2-2 コロナ襲来(これからが本当のあとがき)

索引

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